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<ライブレポート>小室哲哉×オーケストラ最新ツアー【ELECTRO】終演、進化しつづけるTKサウンドが観た新たな景色

 6月29日愛知県芸術劇場からスタートした、小室哲哉×オーケストラの最新ツアー【billboard classics ELECTRO produced by Tetsuya Komuro】(全6公演)が、9月3日(火)東京文化会館大ホールでファイナルを迎えた。

 2022年に行なった初のフルオーケストラコンサートを進化させ、今回はフルオーケストラではなくチェリスト・徳澤青弦を含む22人編成の少数精鋭オーケストラpremium orchestra ELECTROと共演。指揮・アレンジは前回に続き藤原いくろうが手掛け、オーケストラアレンジには徳澤青弦、神坂享輔、水野蒼生、和仁将平も加わり、オーケストラの生音×電子音で数々の名曲を届けた。

 千秋楽の東京文化会館公演の最後に小室は「僕の実験に付き合ってくれてありがとう」と、客席に向け感謝をしたが、これまで小室は常に新しいものを取り入れ、斬新なトライアルを繰り返しハイブリッドな音楽を求め続けた。この【ELECTRO】がまさにそうだ。ベルギーのフェス【Tomorrowland(トゥモローランド)】が企画する<Symphony of Unity>に代表される、ヨーロッパで人気のEDMとオーケストラが融合したイベントに刺激を受け、【ELECTRO】を企画した。そして「EDM、ダンスミュージックとオーケストラの架け橋のような存在になれたら嬉しい」とツアー前のインタビューで語ってくれたように、電子音とオーケストラの音がブレンドされ融合していく——心の深いところまでその熱を届けてくれた。

 拍手に迎えられオーケストラと指揮・藤原いくろうが登場し、続けて小室が登場するとひと際大きな拍手が贈られる。東京文化会館は拍手がステージに降り注ぐようで、その“響き”がいいことも伝わってくる。オープニングナンバーは「Traffic Jam」だ。ピアノと力強いパーカッション、打ち込みのサウンド、そしてオーケストラが早くも抜群の“相性”でひとつになる。客席のテンションが上がる。短いパッセージの繰り返しが印象的なジャズテイストの曲が新しい表情を見せ、現代音楽のような容貌になっていた。小室のピアノの“立った音”も印象的だった。

 「最終日です。6月から始まった、僕がやりたかったこのクラシック編成のコンサート、非常に楽しくやれました」と、笑顔で短く挨拶するとすぐに「約束の丘」へ。小室が2016年にアイドルグループX21に提供したお気に入りの曲だ。眩しい照明が客席を突き刺し、管楽器が主メロを奏で、躍動感のあるリズムをさらにストリングスが立てていく。小室がシンセで囲まれた要塞のようなスペースで、鮮やかなプレイを見せる。配信では鍵盤を激しく弾く指先もハッキリと映し出されて、臨場感が伝わってくる。

 そして「Many Classic Moments」は、ポリフォニックでコーラスも重なり、そこに情熱的な旋律のバロック的なストリングスの響きが加わって、斬新かつ絶妙なバランスが生まれていた。元々スケール感を感じさせてくれる曲だが、さらにスケールアップして、まるでアクションアドベンチャー映画の劇伴のようだった。この曲に「OVER THE RAINBOW」のフレーズを潜ませていたと小室は教えてくれたが、観客も気づいている人が多かったようだ。

 第1部のクライマックスは「CAROL組曲」だ。「A DAY IN THE GIRL‘S LIFE(永遠の一瞬)~CAROL(CAROL’S THEMEⅠ)」から一気に森の向こう側の世界へと連れていかれる。「CHASE IN LABYRINTH(闇のラビリンス)」「GIA CORM FILLIPPO DIA(DEVIL’S CARNIVAL)」「IN THE FOREST(君の声が聞こえる)~ CAROL(CAROL’S THEMEⅡ)」と展開の美しさがさらに際立ち、楽曲同士のハーモニーも堪能できた。そこから照明が激しく交差するダンサブルな「JUST ONE VICTORY(たったひとつの勝利)」だ。オーケストラと小室が奏でる音とがまさにブレンドされ、それぞれの観せどころ、聴かせどころも満載の組曲だった。

 第2部はドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」の第2楽章から。生き生きとした生音、小室のシンセの音、電子音も生き生きしているように聴こえるから不思議だ。美しく深い世界からそのままピアノがややテンポを落とした「FREEDOM」のイントロへと続いていく。徐々に熱量が高まりドラマティックになっていく。最後は小室のピアノが静かに締める。

 「次は僕が50年くらい前から構想して、40年前に書いた『Electric Prophet』をやります。この曲は何年経っても古くならないように、21世紀ではなく22世紀の、遠くから優しく僕達を見守り、寄り添ってくれている理想のヒーローを描いた曲。そういう大人になりたかったのだと思う。今夜はそのメロディと歌詞を紡いでくれる素敵な方をお招きしました」と、ゲストボーカルの満島ひかりをステージに呼び込む。眩しいほどの白いドレスを纏った満島が登場すると、客席から拍手と歓声が上がる。

 そしてカチカチッというオルゴールのねじまき音が聴こえてきて「Electric Prophet」が静かに始まる。小室のどこまでも美しいピアノの音色、弦と管楽器の美しい音、そして美しい満島の、繊細で美しい歌、そこには美しさしか存在しない瞬間だった。透明感と熱さを感じさせてくれる満島の歌と演奏が交差し、まるで光を放っているような感覚になり、胸に迫ってくるものがあった。

 歌い終わると満島は「震えました」と語り「28年前、小室さんの楽曲でオーディションを受けた」と明かし「子供の頃から小室さんの曲で歌ったり踊ったりしていたので、小室さんのピアノの一音を聴いただけ感動してしまいます。リハーサルから宝物のような時間でした」と感激した様子で語ると、大きな拍手が贈られる。小室も「やっと辿りついて同じステージに立てましたね」と笑顔で語りかけている姿が印象深かった。そして「今日のドレスはTM NETWORKの『Twinkle Night』のジャケットの人形が着ているドレスを、モチーフにしていただいたようです」と明かすと、客席から驚きの声があがり、満島は「私が生まれる2日前にこのアルバムが発売されました」と語り、「そのアルバムにこの曲が入っていたという…。トリビュート盤(『TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-』)でもリアレンジしてカバーしてくれて、今日また違うアレンジで歌ってくれて嬉しいです」と、小室も嬉しそうだった。

 「Coexistence」はピアノの連打と激しいストリングスと打ち込み、管楽器のスケールのある全ての音が重なり熱を帯び、どこかヒリヒリとした肌触りになるが、最後は小室のピアノと徳澤青弦のチェロだけで終わり、深い余韻が残る。

 そして、お馴染みのメロディにオーケストラが雄大さを纏わせる「Get Wild ELECTRO Mix」だ。美しく凛としたメロディがいつもとは違う佇まいで客席に向かっていき、心を鼓舞するようだ。誰もが知るこの曲で“ELECTRO”が目指すところへ手を引き、周りの景色も見せてくれながら連れて行ってくれるような——そんな感覚になった。

 ラストはこの季節にピッタリの、夏の薫りがしてくる「South Beach Walk」が心地よさを感じさせてくれる。上品かつ親近感のあるメロディを奏でるオーケストラとシンセと打ち込み、そしてピアノの音が重なると、風を運んできてくれるようだ。

 アンコールに応え小室がステージに登場すると、客席から掛け声が飛び交う。そして「ボーカルがいないので歌ってください」と「BOY MEETS GIRL」を投下する。藤原が客席の方を向き指揮をすると、流れてくるコーラスと共に誰もが口ずさんでいる。そしてショルダーキーボードを肩にかけ「歌いまーす」と「Gravity Of Love」を披露。小室の歌に寄り添うような弦がどこまでも優しい。<引力が導くよ>という歌詞のように、小室哲哉という稀代の音楽家が仕掛ける数々の音楽の魔法に我々は引き寄せられ、そこで驚かされ、その音楽にまた夢中になる。このライブもそうだった。

 全ての演奏を終え、満島ひかりを再度呼び込み「素晴らしい瞬間でした」と感謝していた。そして、小室の打ち込み音源を支えるTK song mafiaの二人とpremium orchestra ELECTROを丁寧に紹介して、全員を送り出しステージに一人残った小室が最後にピアノで「あの夏を忘れない」を弾くと、客席が歌い始め手拍子も起こり、一体感で【ELECTRO】を締めくくった。オーケストラ×電子音のブレンドを目指すライブであったが、小室の美しいピアノを堪能するライブでもあったと感じた。「このコンサートのために作って演奏していない曲がまだまだたくさんある」と語っていただけに、再演が期待される。

 このツアーは各地で異なるゲストボーカルが出演し、まさに一期一会のプレミアムな6公演になった。初日の6月29日愛知公演(愛知県芸術劇場)と7月19日渋谷公演(LINE CUBE SHIBUYA)には野宮真貴が出演し、それぞれ「Gravity Of Love」と「BOY MEETS GIRL」を披露。小室が思わず「おいしそう、お誕生日ケーキみたい」と驚いた野宮の衣装は、客席からもため息が漏れるほど美しかった。野宮と小室の声の相性の良さは出色で、是非また聴きたいレアなコラボだった。渋谷公演では小室のリクエストで「Gravity Of Love」の中に「東京は夜の七時」のフレーズをミックスさせるという粋な演出も。

 そして7月26日福岡公演(福岡サンパレス コンサートホール)、28日兵庫公演(兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール)には盟友・木根尚登(TM NETWORK)が出演。それぞれ「Carry On The Memories」と「You Can Dance」を披露。木根は吉田拓郎の「夏休み」を弾き語りしながら登場すると拍手と爆笑が起こる。小室が木根にハーモニカの演奏指導をするなど、変わらない二人のやり取りに客席も笑顔だ。「Carry On The Memories」をデュエットし、「You Can Dance」は木根がピアノを弾き、小室はショルダーキーボードでセッション。オーケストラと二人の演奏が共鳴していた。

 そして8月12日北海道公演(札幌文化芸術劇場hitaru)には宇都宮隆(TM NETWORK)が出演し「Beyond The Time」「Seven Days War」を披露した。宇都宮が登場すると小室が深々と頭を下げ、出迎えるという新鮮なシーンに歓声と拍手が沸き起こる。宇都宮も笑顔で挨拶し、「Beyond The Time」では荘厳なサウンドに乗ってオーケストラをバックに歌う宇都宮の佇まいが美しい。MCでは「そこの台(指揮台)ってすごく神聖な場所ですよね」と話した宇都宮が、指揮・藤原の粋な計らいで指揮台に上がるというシーンも。「僕もまだ上がったことないですよ」と話す小室を横に、藤原のレクチャーを受けてベートーヴェン「運命」の冒頭を指揮するという、まさにここでしか見られない一幕があった。「Seven Days War」は「緊張します」と語っていたようにTM NETWORKで歌う時とは全く違う温度感だったが、二人の声が重なるとやはりあの温度感だ。『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days ~YONMARU~』が5月で終了し、FANKS同様「TMロスだった」という小室が、二人との共演を誰よりも喜んでいたはずだ。

 【ELECTRO】はオーケストラと電子音、そして歌が「共鳴」し「共生」できることを証明し、同時に唯一無二の“豊かな刺激”を感じさせてくれるライブであることを教えてくれた。

 千秋楽東京文化会館での公演は、9月9日12:00までStreaming+にてアーカイブ配信中だ。

text:田中久勝 photo:石阪大輔、武藤眞志、原田直樹、新澤和久

◎公演情報 ※終演
【billboard classics ELECTRO produced by Tetsuya Komuro】
2024年6月29日(土)愛知・愛知県芸術劇場 大ホール OPEN17:00 / START18:00
2024年7月19日(金)東京・LINE CUBE SHIBUYA OPEN17:30 / START18:30
2024年7月26日(金)福岡・福岡サンパレスホテル&ホール コンサートホール OPEN17:30 / START18:30
2024年7月28日(日)兵庫・兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール OPEN16:15 / START17:00
2024年8月12日(月・祝)北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru OPEN17:00 / START18:00
2024年9月3日(火)東京・東京文化会館 大ホール OPEN17:30 / START18:30

音楽プロデューサー・編曲:小室哲哉 
出演:小室哲哉
ゲストボーカル:
【愛知】【7月19日 東京】野宮真貴
【福岡】【兵庫】木根尚登(TM NETWORK)
【北海道】宇都宮隆(TM NETWORK)
【9月3日 東京】満島ひかり

指揮・オーケストラアレンジ:藤原いくろう
チェロ・オーケストラアレンジ:徳澤青弦
オーケストラアレンジ:神坂享輔、水野蒼生、和仁将平

配信チケット(Streaming+)4,700円
アーカイブ:9月9日(月)12:00まで
購入はこちら:https://eplus.jp/tetsuyakomuro/


公演公式サイト
https://billboard-cc.com/electro-tetsuyakomuro

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